「いぬばば」とマロ(シーズー)のたわいない話
 静かなお花見
2007年03月29日 (木) | 編集 |
cherryb


初夏のような陽気の今日の午後、母をお花見に連れ出した。
石神井川沿いに咲き誇る満開の桜を指し示し、「ねえ、きれいだよ、目を開けようよ」とせがむ私。

まぶしいのか眠いのか、母の目のつぼみは固く閉じたまま。
なんどもしつこく耳元で「見て、見て!!」と言うと、ほんの少しだけ目を開けるが、すぐにまぶたを閉じてしまう。
まるでまぶたの裏に映る桜の景色の方がいいよ、という感じ。

去年の今頃も同じ道を通って同じようにお花見したが、あの頃はまだにっこりして「うん、きれいだね」とか、「まぶしい」とか話せていたっけ。

そんなことをぼ〜っと考えていたら、向こう側から車椅子のお年寄りにお花見をさせている見慣れた顔が近づいてきた。
「あ、Yさんじゃないですか〜」私が先に声をかけると、Yさんもにっこりほほえんだ。
「まあ、しばらくぶりですね〜」
Yさんは、うちに来てくださったホームヘルパーさん第一号で、母の大のお気に入りさんだった方だ。
「Yさんよ、お久しぶりね〜」と耳元で大きな声で伝えたが、母は目を一瞬開けるものの、無表情のままだった。

「あ..ああ、ほら、逆光だからお顔がはっきり見えないんですよ」と私があわてて言うと、Yさんは「そうね。それにわたしが髪を切ったからよけいにお分かりにならないんだわ」と言って微笑みつつも母の病状悪化を瞬時に悟り、悲しそうなお顔をなさっていた。

Yさんと、咲き誇る花たちに別れを告げ、来た道を戻ることにした。
今日は本当にあったかくって眠くなるよね〜。
春眠なんとかかんとかって言うもんね〜。
お部屋に帰って寝るとすっか。

そう言って無言の母の車椅子を押し、なだらかな坂道をのぼって施設へ帰った。