
昨日は久しぶりに母に面会に行ってきた。
もうすっかり顔に表情もなくなり、ことばもほとんど話せなくなってしまった母は、私をしばらくぶりに見てもなんの反応を示さなかった。
「今日は調子どお?」
「ごめんね、風邪ひいちゃってしばらく来れなかったんだ」
「外は暑くて汗ダラダラだよ」
「かゆい? (ポツポツの)赤みがだいぶ薄くなってよかったね〜、もうひといきだよ」
「あー、なんだか腹ヘリコプターだなー」
いつもの調子で母を相手に私はひとりでしゃべった。
ときどき何かを思い出したように母は何かを話そうとするが、もうほとんど聞き取れない。
動作もますます緩慢になり、右手がかろうじて使えるくらいである。
ところが!
なんと、もうとうの昔に押せないと思っていたナースコールを、母はゆっくりとだが、自分の右の手指を使ってしっかりと押したのである。
これには私も感動してうれしくてウルウルしてしまった。
結局は母がなぜその時ナースコールを押したのかはわからずじまいだったが、すぐに来てくれたヘルパーさんも一緒になってよろこんでくれた。
ちゃんと押すべき時に押せればなおいいんだけどね、でもすごいよ、押せるんじゃん!
一人でうれしくてはしゃいでる私を見て、母はポツリとひとこと。
「あ、た、り、ま、え..」
これははっきり聞き取れた。
そうよね、あたりまえなんだけど、あたりまえなんだけどさ、やっぱりうれしいよ。
少しずつ遠くへ行き始めた母が、ほんのちょっと戻ってきてくれたような気がして目頭が熱くなった。



